地政学

地政学的にアメリカは最強:アメリカは自由貿易を必要としない

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今回は地政学的にアメリカという国は富を生み出しやすいという点を書きたいと思います。

そもそも地政学とは?

地政学とは、「地理条件が国家にどのような利益・不利益をもたらすか」ということを研究する学問です。国家戦略を決めるにあたり科学的な説明をするために19世紀に発達した学問といわれています。その特徴としては地理学・政治学だけでなく軍事学・歴史学などいろいろな学問からなる学際的であるということかと思います。

しかし、戦前のドイツや日本で海外への進出の理論的支柱となったとされたため、戦後は忌避される学問となり、現在の日本ではあまり盛んな学問とはいえません。アメリカでは地政学の研究というのは現在でも盛んにおこなわれており、民間企業であるユーラシアグループは世界の大企業に地政学に基づくコンサルティングを行う企業もあります。

今回は地政学的な分析で2030年を予測した書籍である「地政学で読む世界覇権2030」という本の内容にそって、アメリカが豊かな理由を記載します。この本は2014年に出版された本で、Kindleでも購入できます。知的好奇心を掻き立てる良書だと思います。

地政学に基づく豊かな国

世界には「豊かな国」や「豊かでない国」があります。豊かな国はなぜ現在の繁栄を遂げたのかというと、「国内の商業活動が活発である」「国防がしやすい(ので税金が低い)」の2点に集約されます。

国防がしやすいというのは理解が簡単です。日本は古代から強力な隣国がありますが、海に囲まれているという地理的条件のため、モンゴルに征服されずに国を維持できています。第二次世界大戦では英仏海峡は33キロしかないのに、ヒトラーはイギリスに侵攻できませんでした。海というのは防御に適しています。一方、ポーランドは平地なので国内の商業活動を活発に行いやすいのですが、侵入する他国の軍隊を遮るものがないので、ロシアやドイツなどに占領されてしまったという歴史があります。

国内の商業活動が活発、というのはどういう条件が必要となるでしょうか?この本では「移動の容易性」というのを挙げています。物資の運搬には陸運と水運とがありますが、現在に至っても水運のほうが圧倒的にコストが安くすみます。港さえ整備したら、その途中の川や海は何もしなくても移動手段となります。一方陸運だと重い物資の運搬はそもそも大変ですし、橋・道路・トンネルなどの維持にコストが掛かります。鉄道は一度建設すると陸運のコストを安くしますが、それでも水運に比べると割高です。陸上インフラの建設・維持に多大なコストが必要となります。つまり「水運に適している=水運はコストが安い=少しの労力で商業ができる=富が生まれやすい=国が発展する」という図式です。

とういわけで、古代から商業が発達したのは水運に便利な港に面した町であったり、大きな川に面した場所となります。日本だと昔の港町として堺・博多が発達し、ヨーロッパだとテムズ川の渡河地点であったロンドンや、セーヌ川の渡河地点のパリなどは商業の発達しやすい土地であったといえます。

国外からは攻められにくく、国内では水運による物資の輸送が簡単、そんな国が古代にありました。エジプトです。

古代エジプトの地政学的特徴

エジプトの航空写真です。

エジプトはナイル川の河口の三角州をナイル川流域は肥沃な土地で、古代から穀倉地帯でした。物資の運搬や治安維持のための兵士の移動はすべてナイル川を使えばいいので、商業だけでなく国家の建設・維持も低コストで実現しました。ナイル川の下流は流れが穏やかなので、北にも南にも自由自在に移動できます。

さらに東西は砂漠、北は海で外部からエジプトを占領するだけの軍隊を送るのは困難です。南のスーダンから攻めればいいのですが、ナイル川上流は流れが激しく滝もあるので、南からエジプトへの占領軍が侵入するのも困難です。

エジプトは典型的な「国内の移動コストが低い」「国外からは攻められにくい」という国でした。

ところが・・・遠洋航海技術やラクダによる砂漠の行軍という技術が発達したため、外から攻められるようになりました。エジプトではあまりに長い間安定していたので、技術面での進歩が全く止まっていました。なのでエジプトに侵入できた他国の軍隊は、恐ろしく無気力な豊かな国を征服できたということになります。紀元前1世紀ローマのカエサルによる支配以来、第二次大戦後の英国からの独立まで、エジプトは独立を失ってしまいました。

地理的には大変有利な条件だったエジプトも、遠洋航海・ラクダという技術の発展には勝てなかったということですね。地の利に胡坐をかいて努力を怠ってはいけないということです。

アメリカの地政学的特徴

では現代の最強国家であるアメリカの地政学的特徴はどのようなものでしょうか?

上の地図はアメリカ48州とミシシッピ川をハイライトしたものです。

まず、アメリカは「国内の移動が容易な国」です。それはミシシッピ川という大河を用いた水運を利用できるということに尽きます。さらにミシシッピ川から伸びる運河をつくることであらゆる場所で水運を利用できるようになります。五大湖とも接続すればセントローレンス川を通じ、さらにセントローレンス川からの運河を通じてニューヨークに接続されます。ちなみにミシシッピ川支流のイリノイ川と五大湖のひとつミシガン湖の運河の接続地点がシカゴということになります。

さらに奇跡的なことにこのような水運の利がある土地は、世界で最も豊かな穀倉地帯であるということです。アメリカ初期の小規模自作農は水路を利用して穀物をすぐに、かつ遠くに売ることが出来ました。政府は何もしなくてもミシシッピ水系により商売の発展の基礎が形作られていました。(ドイツでは商業の発展のために国家が主導して鉄道を作る必要がありました)ここでアメリカ人の精神に培われたのは「小さな政府」と「企業家精神」ということになります。

この水路により商品を低コストでどこまでも運べたため、莫大な資本を蓄積できるようになり、アメリカでは大企業が勃興していくことになります。

さらにアメリカの海岸線には防波島が多数あり、天然の良港がたくさんあります。アフリカ大陸では大型船が発着しやすい天然の良港はわずか10か所ですが、アメリカではいくつもあります。よって、ミシシッピ水系だけでなく、陸に沿った海の航行もしやすい、という地理的な特徴があります。

まとめるとアメリカは肥沃な大地に縦横無尽にのびる世界最大の水路網、そして多くの海沿いの天然の良港があるという地理的特性のため、莫大な資本が蓄積されやすいということです。

ここまではエジプトと大差ないのですが、国防のしやすさはどうでしょうか?

まず陸続きなのはカナダとメキシコです。カナダとの国境は、西側はロッキー山脈、東側も山地や深い森があるため、大規模な軍隊の通行には適しません。中央部の国境は遮るものがない平原ですが、そもそもアメリカの人口はカナダの10倍以上あり、むしろカナダがアメリカに取り込まれるほうが懸念が強い状況です。カナダがアメリカの脅威になることはあり得ません。

次にメキシコですが、メキシコは山がちな国でそもそも移動・輸送が困難な国です。よって地理的な特性としてメキシコは発展しにくく、山がちなためアメリカに攻め込もうにも中心部から国境への軍隊の移動が困難です。実際、19世紀半ばのアメリカとの戦争で、メキシコはテキサスとカリフォルニアをアメリカに取られました。アメリカはテキサス・カリフォルニアに水路や平原を通って素早く軍隊を派遣できますが、メキシコは出来なかったからです。

陸上からアメリカを攻めにくいとあると、次は海ということになります。先ほども記載しましたが、そもそもヒトラーですら33キロしかない英仏海峡を越えられませんでした。海運に関する技術は発展はしていますが、はるばる太平洋や大西洋を越えて、3億人もの人口を屈服させる軍隊を派遣できるでしょうか?事実上不可能ということになります。

というわけで、アメリカは国防に力を入れる必要がありません。その分税金が安くなるということです。国内の商業も、地理的特性により政府がインフラ整備をせずとも勝手に繁栄しやすいという状況です。国を低コストで運営でき、商業が発展する、そういう地政学的特徴がある国がアメリカということになります。更に19世紀以来技術力もピカイチであり、21世紀の現代はIT技術では世界を圧倒しています。まさに最強国家ということになります。



アメリカは自由貿易の庇護者?

第二次世界大戦後は、共産主義の脅威もあったため、アメリカは圧倒的に豊かな自国の市場を開放し、自由貿易を促進することで西側陣営の発展を促しました。過去の帝国と違い、アメリカはわざわざ植民地を作って軍隊を駐在させて富を収奪する意味がありません。自国が圧倒的に豊かだからです。その代り、ソ連との対峙では自国市場へのアクセスを同盟国に保障することで自らの覇権を維持する政策、すなわち「ブレトンウッズ体制」と敷いてきました。1971年に金との兌換停止によりブレトンウッズ体制は終わったとされていますが、現在も「自由貿易=アメリカの市場にアクセスできる」「ドルが基軸通貨」というブレトンウッズ体制は生きているといえます。

これまでは共産主義の脅威ということで、アメリカは自由貿易を推進していましたが、共産主義の脅威がなくなった今の本音はどうでしょうか?

実はオバマ政権は自由貿易を推進する一切の政策を取っていませんでした。あからさまな後退はさせなかったものの、促進もしていないということです。トランプ政権になるともはや自由貿易に背を向け始めているという状況です。トランプ大統領個人の考えで、自由貿易を止めたがっているのか、それともアメリカという国自体が自由貿易を魅力的と感じていないのか・・・。

アメリカは自由貿易などいらない

アメリカは貿易立国なのでしょうか?

ちょっとぼやけてしまっていますが、これはJPモルガンの資料です。各国のGDPに占める輸出の割合を示したものです。

2010年と古いのですが、なんとアメリカはGDPのたった8.8%しか輸出が占めていません。対して中国は27%近くもあります。日本も14%と意外と内需国ということがわかりますが、それにしてもアメリカはそもそもGDPに占める輸出の割合が低いのです。

つまり、地政学的、そしてこれまでの歴史によりアメリカは国内が非常に豊かなので、他国と自由貿易などしなくても十二分に豊かなのです。そんなに得にならない自由貿易を擁護する必要もないし、わざわざ他国に軍隊を駐留させる意味合いが薄まってきています。

唯一、アメリカに必要な石油の確保のために世界展開をする必要があったのですが、それもシェールオイル・シェールガスの開発の成功により、今やエネルギーも自給できてしまいます。そうなると、アメリカは別に自由貿易などする必要がなく、選挙民が困らないように関税をかけまくったほうが合理的、ということになります。

アメリカは地政学的に莫大な資本を蓄積しやすい特徴があるうえに、歴史的に培われた勤勉な国民性・企業化精神・技術開発の志向という古代エジプトには無かったソフト面での特徴もあるため、極めて豊かな国となっています。共産主義の脅威がなくなった今はもう別に自由貿易をコストかけてまで、選挙民を不機嫌にしてまで擁護する必要がなくなってしまったということです。

というわけで、トランプ大統領がエキセントリックというわけでなく、そもそもアメリカは自由貿易をするインセンティブが無いというのが地政学的に導かれることになります。

地政学的には米国株投資がセオリー?

以上から投資家の視点で導き出される結論としては、莫大な資本が蓄積されやすい、アメリカへの投資、アメリカ企業への株式投資というのが有利ということが地政学的に説明できるということだと思います。日本や他国と違い、ダウ平均がこの100年右肩上がりなのは、アメリカという地政学的に非常に有利な国の株式指標だから、ということも理由の一つなのかもしれませんね。

私も仕事でたまにアメリカと関わりがあるのですが、あの国の底力には恐ろしいものを感じます。退役軍人のビジネスマンのアクの強さ、オタクっぽいアジア系のITの技術・・・なんだこの国は?という感じですね。工事現場のオジサンも勤勉ですし(英語の訛りが強くて何を言っているのか分かりませんが)それに自主独立の意識が強く、フリーランスになって自分で稼ぐ人が多いです。これも開拓時代の自作農から続く精神性なのかもしれません。(それは水運で穀物を遠くまで運べるから一人でもやっていけた、という地理的特徴から生まれた精神性なのでしょうか・・・)

 







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スモーク

スモーク

新卒日本企業→豪州駐在→豪州企業転職→日本に帰り日本企業転職→外資系企業転職で今に至る。オーストラリアには7年在住。豪州株がポートフォリオの主力で総資産は1億円弱、年間受取配当金は税後で300万円。すでに経済的自由は達成も、まだまだ資産と配当金を伸ばしていきたいと考えている。

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