石油株分析

YPF:アルゼンチンの石油会社

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今回はアルゼンチンの石油企業を紹介します。アルゼンチンの会社ではありますが、ADRとしてニューヨーク証券取引所に上場しています。日本からだとSBI証券から投資することができます。

アルゼンチンというリスキーな国ではありますが、アメリカに次ぐシェール革命が実現する国としてアルゼンチンは注目されているようです。YPFは有望といわれる鉱区を保有しており、今後の生産増が期待されます。が、この会社に投資するのは非常にリスキーです。最大のリスクは、アルゼンチン政府による介入だと思います。せっかく頑張って分析したのですが、リスクが余りにも高いので、このままではYPF株の購入は難しいです。とはいえ、遠い異国の会社を分析するというのは面白かったですが。

アルゼンチンという国

アルゼンチンは人口4500万人程度、人口ピラミッドはきれいな三角形型で若年層の人口が多い国です。

さらに、地理的には非常に恵まれた国です。下記がアルゼンチンの地図です。

北東部に首都ブレノスアイレスがあります。そこに流れているラプラタ川という大河をさかのぼれば、ブラジルやパラグアイまで大型船で航行できます。ラプラタ川流域は土壌が豊かで、緯度もちょうどよいので農業の生産性が非常に高い地域です。さらに、農産物はラプラタ川水系で輸送すれば世界中に輸出できます。高い生産性と低コストの輸送を実現できる、ということでアメリカのミシシッピ流域と同じ「資本が蓄積しやすい」という特徴があります。つまり、アルゼンチンはアメリカと同様、非常に恵まれた国なのです。

実際に、アルゼンチンは1920年では世界第7位の経済力がありました。過去、ヨーロッパからアメリカ大陸に渡った移民は「アメリカ合衆国」か「アルゼンチン」かどっちに渡ろうかと比較したようです。母をたずねて三千里のマルコのお母さんもアルゼンチンで働いていたように、昔は豊かな国でした。

しかし、、第二次世界大戦後にアルゼンチン経済はおかしくなりはじめます。ペロンが大統領になりポピュリスト的政策を開始してから経済が混乱しはじめました。民族主義を標榜して外資を追い出し(資産を接収して国有化)、民族資本のみで経済運営しようとしたり、貿易の国家統制や、労働組合の手厚い保護、土地所有者の弾圧・・・などいわゆる庶民受けのよいバラマキ政策により、結果としてアルゼンチンの経済が傾いてしまいました。

その後別の人が大統領になりましたが、再びペロンが大統領に返り咲きます。ペロン政権第2期では、(元ナイトクラブのダンサーだった)ペロン大統領の妻のイサベル氏(最初の妻であるエヴァ・ペロンは死別)を副大統領にしました。ペロンが在任中に病死した後、イサベルが世界最初の女性大統領となりましたが・・・政治的能力はなく、オイルショックによるインフレと国内の治安の悪化で、アルゼンチンの状況はますます悪化していきました。

続く軍事政権ではフォークランド紛争でイギリスに負けて対外的な威信が完全に失墜して、国内も更に混乱してしまいました。

その後は新自由主義政権が国内産業を外資に切り売りする政策に転換したかと思えば、またペロン政権と同様ポピュリスト的政策に戻ったりと、政治・経済がうまく機能せず、最近では2001年と2014年にはデフォルトを起こしています。

現在のマクリ大統領は実業家出身で、外資とも協調して経済発展をさせようとしていますが・・・アルゼンチンは通貨のペソがどんどん下がっています。過去数十年にわたる拙い経済政策で疲弊しきっているアルゼンチン経済は、一朝一夕には好転はしないようです。

為替はどうかというと、米ドルに対してずっと下落しています。

以上のように、ポテンシャルが非常に高いにもかかわらず、非常に拙い政治のせいで、経済・為替が全然ダメになってしまった、というのがアルゼンチンという国です。

アルゼンチンの石油・ガスのポテンシャル

アルゼンチンには石油やガスがあります。BP統計によるとアルゼンチンは中南米最大のガス生産量で、石油生産量も中南米で4位ということです。

そして注目すべきなのは、アルゼンチンは有望なシェールガスの鉱区があるということです。

ロイターの情報なのですが、アルゼンチンは21.9兆立方メートルと、アメリカの24.4兆立法メートル同等のシェールガス埋蔵量があります。もしアメリカと同じようにシェールガスを開発できたら、ガス生産国として発展できるかもしれません。

アルゼンチンでは多くの会社が石油・ガスを生産していますが、地元起業のYPFが最大の生産者です。

上記はYPFのプレゼンテーション資料からの抜粋ですが、石油生産、ガス生産ともにYPFが約40%を占めています。そのほかにはトタルやシェブロンといったメジャーが参入しています。

YPFはアルゼンチン国内で多くのシェールガスの有望鉱区を保有しており、今後はガス生産が拡大するかもしれません。

前置きが長くなりましたが、YPFの分析をしていきます。

YPFの歴史

1920年代~1990年代前半までアルゼンチンの石油セクターは国営でした。時の政権により国営石油会社の民営化が図られ、1993年の民営化が実現しYPFが誕生しました。

1999年にスペインの大手石油会社であるレプソルが、YPFを買収しました。YPFはレプソルの下でスペイン資本として引き続きアルゼンチンの石油ガスの生産に従事しました。

ところが、2012年、レプソルが保有していたYPF事業がアルゼンチン政府により接収されてしまいました。当時のポピュリスト的な政府が、「国家接収法」を成立させて、無理やりレプソルからYPFを引きはがしたのです。当然レプソル、そしてスペイン政府も大激怒で両国の外交問題に発展しました。

結局2014年にアルゼンチン政府側が、レプソルに接収の補償として50億米ドルを支払うことで一応の決着となりました。こうしてYPFはアルゼンチン最大の企業として独り立ちすることになりました。その後、現在にいたるまでYPFはアルゼンチン最大の石油ガス生産企業として君臨しています。YPFの持分の半分以上が政府所有であり、国営石油企業と言える状況です。

YPFのビジネス

YPFはアルゼンチン最大の石油・ガス生産企業で、生産のほか石油製品の精製も行っている、垂直統合されたエネルギー企業です。

YPFのビジネスの流れを説明した分かりやすい図がありましたので、下記に貼っています。

以上の図の通り、石油については生産と精製を行っており、精製された製品の90%をアルゼンチン国内に販売し、10%を国外に輸出しています。天然ガスは生産された全量をアルゼンチン国内に販売しています。

YPFは2017年に石油とガス合算して190百万バレル相当を生産しました。一方で、YPFが確保している埋蔵量は920百万バレルです。このままだとあと5年で枯渇します。しかし、一般的に石油会社は石油・ガスを探す「探鉱」活動をして石油ガスの在庫を積み上げます。5年で枯渇するわけではありませんが、生産量以上の石油・ガスを発見できるのかが問題となります。これはリザーブ・リプレースメント・レシオ(RRR)と呼ばれ、下記は日本の石油天然ガス金属鉱物資源機構のページからの抜粋です。

 RRRは、企業がその有する埋蔵量から単年度(または特定期間)に生産した石油ガスを回復し、翌年度以降も問題なく生産を継続できるかを示す数値である。生産分の同量を回復出来る場合が100 %で表示されるため、これを大きく上回れば、企業は将来に亘り、生産継続が可能であることになり、これを下回れば問題があるということになる。埋蔵量の計算上、確認埋蔵量の買収・売却も考慮する必要がある。これを式で示すと下記のようになる。

埋蔵量の拡張と新規発見+回収率向上による埋蔵量の増加+埋蔵量再確認による改定増+確認埋蔵量の買収)÷(生産量+確認埋蔵量の売却)

現在は、産油国の資源ナショナリズムの高まりもあり、欧米石油大手企業でさえも、高RRRの達成には苦慮している。

つまり、RRRがずっと100%を超えていれば、石油・ガスを生産した分以上に、在庫を積み上げられているので、企業の継続に問題ないということです。

YPFのRRRですが、2016年は46%、2017年はわずか9%となっています。YPFによると、最新の生産技術の導入によりより多くの石油・ガスの生産が可能となること、シェールオイル・シェールガスの生産を拡大することで、埋蔵量の拡大につとめるということです。(個人的には、埋蔵量あと5年分しかなく、かつRRRの数値も低いので、長期的なYPFの石油ガス生産に懸念がありますが…)

YPFの財務数値

アニュアルレポートに記載されていた数値を拾いました。

売上・利益

右肩上がりの売上ではあります。ただ・・アルゼンチンはずっとインフレ状態ですので、売上の伸びは数値ほど顕著ではないかもしれません。

キャッシュフロー

営業CFは毎年黒字です。YPFのビジネス自体は安定していますね。特徴的なのが、アルゼンチン政府に接収された2012年以来、配当金の支払額が激減していることです。やはり国家により接収されると、投資家へのリターンは減ってしまうということでしょう・・・。

バランスシートと各種財務数値

資産は順調に積みあがっています。

ROEやROICは徐々に右肩下がりです。2012年にアルゼンチン政府により接収されてからは資産効率が下がっています。

負債比率も徐々に上がっているのが気になるところです。

一株あたり利益・配当金と配当性向

こちらも2012年の政府収用以来、配当性向が非常に下がっています。逆に言うと配当を上げる余地がまだまだあるということだと思いますが…。

YPFのチャートは上記の通りです。配当利率は0.66%と非常に低いです。配当支払いの余力はあるのですが、アルゼンチン政府が投資家へのリターンを重視するとは思えません・・・。

YPFの将来の見込み

YPFの今後は、シェールの開発が成功するかどうかに掛かっています。

足元のシェールオイル・シェールガスの生産量は上がっているようです。下記は2018年2Qのプレゼンテーション資料からの抜粋です。

 

生産量が52.8%増加しているだけでなく、コストも下がっているようです。3年前と比較するとコストは2分の1未満になっています。

アメリカのシェール生産中心地のひとつにテキサスがあります。テキサスではヒスパニック系住民が多く、シェール生産の現場労働に従事している人にもヒスパニック系が多いとのことです。つまり、スペイン語を話す現場労働者がシェール開発に従事しているということです。アルゼンチンの公用語もスペイン語です。アメリカのヒスパニック系熟練労働者がアルゼンチンに渡って、アルゼンチンのシェール鉱区の開発に従事しても言葉の問題はありません。

事実、エクソンモービルやシェブロンといったアメリカの大手企業がアルゼンチンのシェール鉱区で開発を進めているようですので、もしかしたらアルゼンチンでシェール革命が起こり、ガス生産が爆発的に伸びるかもしれません。そうなるとYPFも恩恵を受けることでしょう。

一方で、非常に気になるのがYPFによる投資家へのリターンに対する考え方です。上記の通り政府による接収以来。配当金支払を大幅に削っています。さらにYPFのアニュアルレポートに記載があるのですが、アルゼンチンの国家接収法には「アルゼンチンの国益のため、社会的に平等な発展のため、雇用の創出、アルゼンチン全国津々浦々の発展のためにYPFは操業する」と規定されているようです。投資家へのリターンは二の次、三の次ですね。

YPFの分析まとめ

  1. 2014年に国家によりレプソルのアルゼンチン事業を接収してできたのがYPF。(レプソルは1999年にYPF買収)アルゼンチン政府の影響力が強く、投資家へのリターンは熱心ではない可能性大。実際2012年に接収されてから配当金支払いが激減したままである。
  2. 埋蔵量があと5年分しかない。リザーブリプレースメントレシオ(RRR)が100%を切っている。
  3. シェール鉱区は有望。生産コストも下がっており、シェールオイル・シェールガスの生産が軌道に乗ると、YPFは今後成長する可能性もあり

せっかく分析をしてみたのですが、YPFは投資家へのリターンよりも、アルゼンチン政府の政策実現を優先しそうな会社です。アルゼンチンのシェール鉱区開発で成長するかもしれない、というロマンあふれる会社なのですが・・いかんせん国自体が投資家にフレンドリーではないので、個人的にはYPFの投資は難しいかな、と感じています。

石油ガスの生産ビジネスは、①地層の問題 ②地上の問題 と、2パターンの問題があります。一つ目は、商業的に石油やガスが採掘できるか?という問題です。これが駄目ならどうしようもありません。一方、商業的に採掘できたとしても、鉱区がある国の制度・政策によっては、うまく石油ガスが生産できないという問題です。イランなどがまさに②の典型ですが、アルゼンチンも政府が邪魔という感じがします・・・。

①も②も問題がすくない、アメリカという国は世界でも珍しいのかもしれません。アメリカ企業は投資家へのリターンに熱心ですので、安心して投資できます。石油会社に投資するなら、やはりアメリカの会社かなあと、YPFの分析をして感じました。







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スモーク

スモーク

新卒日本企業→豪州駐在→豪州企業転職→日本に帰り日本企業転職→外資系企業転職で今に至る。オーストラリアには7年在住。豪州株がポートフォリオの主力で総資産は1億円弱、年間受取配当金は税後で300万円。すでに経済的自由は達成も、まだまだ資産と配当金を伸ばしていきたいと考えている。

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